オンライン設計室
29:住んでみて
最初から下町の精通した建築家を探した
AR-HOUSEは、駅からもわずかな場所で、かつては近隣の人たちでにぎわったであろう商店街のなかにあります。
AR家も、平成の終わりくらいまでここで布団屋さんを営んでいたそうです。 
結婚して近くの貸家で暮らしていたARさんが、その実家を建て替えたのがこのAR-HOUSE。
ARさんご夫妻とお子さん、ご両親、弟さん、おばあちゃんという4世代7人が暮らし、かつ仕事部屋もある家が求められました。
建て替えようと思ったきっかけは、暮らしていた貸家の建替えで退去しなければならなかったこと、ちょうどお子さんが生まれる時期だったこと。
下町の密集地では防耐火規制が厳しいところが多く、そうした性能をウリにするハウスメーカーで建替えが行われることが少なくありません。
でもARさんは最初からハウスメーカーは考えていなかったとか。

理由は「頼んだとしても、やり取りする過程でうまくいかないんじゃないか」との本人予想。
これには奥さんも「きっとケンカになった(笑)」と太鼓判(?)を押してくれました。
ARさんの仕事はデザイナーでものづくりの人。
こだわるところがちょっと違う。
オンライン設計室03の「ご希望を伺う」にあるように、要望が断面で整理されています。 
一般的に自宅を考えるときには「キッチンがあってリビングがあって。。。」と間取り、つまり平面から考えると思います。
もちろん敷地の特性にもよりますが、住まい手側の現実的な課題をこんなかたちで論理的に整理できると、「つくる側の論理」で泣く泣く妥協するようなことはかなり減るはずです。 
下町の住宅を熟知している点を見込んでARさんが設計を依頼した大戸さんも、「プランの半分以上はARさんの考え。
我々はそれに少し手を加えただけ」と語り、依頼者と設計者の強い信頼関係がうかがわれました。
北側でも明るい居室を実現する
さて、では住み始めてからの状況はどうか。
今回聞きたかったのは次の2点。
まず下町特有の間口の狭い細長い敷地の2世帯住宅の使われ方、次に細長い敷地ゆえの北側の居室の日照についてです。
AR邸は玄関も水廻りも共有しない完全別居タイプの2世帯住宅で、1階内部の1枚の扉だけでつながっています。
どれくらい行き来があるのかをうかがうと、「娘がお風呂上りにヤクルトをもらいに毎日おじいちゃん、おばあちゃんのところに行く」とのこと。
またARさんも1階北側の仕事部屋で作業しているときは、親世帯にある1階トイレを使うためわりと頻繁に境の扉は活躍しています。
もともと仲の良い親子関係があればこそではありますが、下町の間口の狭い敷地でも適度な距離間の2世帯住宅ができているのは間違いなさそうです。
もう一点の北側居室の明るさはどうか。
京都の町家のように敷地の中央付近に中庭を設ける例がこうした敷地では多いのですが、AR邸に中庭はありません。 
AR邸の構成をざっくり言うと、道路側の南に親世帯、奥の北側に子世帯(ARさん家族の住まい)。
ついでに、親世帯側でも子世帯側でも、最上階は北に上がっていく傾斜天井になっていて、一番高くなる北側にロフトが置かれます。 
子世帯側では、その傾斜天井の一部に穴を開けて高さ50cmのハイサイドライトが設けられています。
高さ50cmというと、決して大きな窓ではありませんが、ここから入る南からの陽射しが吹抜けの3階LDKを明るく照らし、暗いという印象はまったくありません。
この窓は、開閉もカーテンも電動でできるので、夏はカーテンで陽射しを遮り、季節のよいときにはこの窓を開けるだけで風が抜けて涼しいそうです。

水はねが気になる洗面室などは塗装の色をもう少し濃くしておけばよかったとか、暮らし始めて気づいた細かい反省点はあるものの、新居での暮らしにはかなり満足。そんな印象を強く受けたARさんご一家の暮らしぶりです。
report by 市川隆
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