住んでから少し時間が経過した住宅の様子を
レポーターの市川さんを通して表現しています

千葉市郊外に建つ、木造2階建て住宅です。設計のテーマは老後の家です。
-Vol.9-
老後のすまい・漆喰の家
- TH-HOUSE -
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5,「気軽さ」のギャップ


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最近の住宅設計では、よく「フレキシビリティ」という言葉を聞きます。
間取りに自由度をもたせて生活スタイルの変化に対応し、家の長寿命化に貢献する。その考え方には大賛成。
でも、現実の自分の生活を考えたとき、いくら「簡単に」壁が取り払えるとか床が張れるといわれても、間取りを変更するって、大変なことだと思いませんか? 

もちろん作り方にもよりますが、大工さんに来てもらう以上、意識としてはリフォーム工事に近い気がして、「気軽に」できるとはあまり思えないのです。「気軽さ」自体、大工工事が身近な設計者と、ほぼ縁のない一般生活者の間にギャップがあるように感じます。

th10-1.jpg←click(1階平面図)

th10-2.jpg←click(2階平面図)
 


同じような例が移動式の家具。かなり大きな収納家具にキャスターを付けて、部屋の仕切り方をコントロールする、というものです。
一見、便利そうですが……。

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たくさんモノが詰まった重たい家具を、どれくらい「気軽に」動かせるものでしょう。

パーティションの移動は頻繁にするものではないから、と言われそうですが、それなら5年に1回、10年に1回動かすのに、本当にキャスターは必要でしょうか? また、動かさない数年間、移動式家具の地震対策はどうなるんでしょう。

キャスター付きの「気軽に」動く大きな家具が、固定されることもなく部屋の中央に置いてあるのは、ちょっと恐ろしい気がします。

TH邸では、そういった「可変性」は用意されていないようです。一定の使い方を想定して、少し広めにつくることに徹しているように見えます。

フレキシビリティの本来の目的は、どんな状況にも対応できること。
間取りが変更できたり、仕切りが動かせたり、状況にフィットさせるのもいいですが、少々のことなら呑み込んで、たくましく使いまわせることも重要です。

将来のことなど、誰にもわかりません。TH邸のもつ広がりは、ヘタに将来を想定せず、なんでも受け止めてくれそうな、そんな大らかさをもっているように感じられます。
 

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