2,バリアフリーからのフリー

TH邸は、大戸さんのサイトのなかで「老後の家」とサブタイトルがつけられていますが、THさんご夫妻はまだ高齢と呼ぶには早い世代です。
それでも、お子さんたちが独立され、これから迎える「老後」を考えて家をつくりたいという思いから、あえて大戸さんにも「老後」を強調されたようです。
そして、「設計依頼のなかでユニークな点が二つあった」と大戸さんが教えてくれました。
その一つは、高齢者の家=バリアフリーというけれど、外に出れば町はバリアだらけ。
だから、あまりにもフラットな家で暮らしてしまうと、かえって足腰が弱りそうだから特別な「バリアフリー住宅」を考える必要はない、ということだったそうです。
家のつくりかたは昭和の時代、つまり旧TH邸が建てられたころから変わってきていて、現在の家はかなり段差が少なくなっています。
もともと扉の枠回りだったり水返しの立ち上がりだったり、作り手側の論理で生じていた段差が、生活者優先の作り方に見直されて、工夫されるようになった、ということだと思います。
ですから現在は、ことさらに「バリアフリーに」と言わなくても、そこそこ段差のない家ができあがります。
今回、大戸さんにバリアフリーでなくてもいい、と伝えたことの一番の意義は、設計者側が知らず知らず思い込んでいる「高齢者=バリアフリー」という固定概念を、最初に払拭したことではないでしょうか。
大戸さんが固定概念に縛られていたと言いたいのではありません。
「暗黙の了解としてバリアフリーが要求されているのではないか」という設計者と依頼者のあいだの、曖昧な状態をクリアにした、という意味です。
それが、大戸さん本来の伸び伸びとした設計につながって、開放的で明るい空間に結び付いているのだと思います。
条件提示の仕方が、設計によい影響を与えた好例(高齢ではない!)ではないでしょうか。
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