1,郊外に住まうという選択
今回のTH邸は、「住んでみて」のシリーズでは珍しい郊外型住宅ということになります。
まずは、その点について考えてみましょう。
都心がいいか、郊外がいいかは、つまるところ都心の利便性をとるか、郊外の環境をとるか、という二者択一に行きつきます。
どちらを選択するにしろ、多くのデメリットは覚悟せざるを得ません。
ただ、利便性というのは相対的なもの。コンビニまで徒歩3分、スーパーまで徒歩5分。電車は3-5分おきに発着するが当たり前。そんな「利便性」と比べれば、郊外の生活は「不便」です。
でも、サザエさんが徒歩5分のスーパーに買い物に行っていないことを考えても、過剰な「利便性」こそが特殊だとは言えないでしょうか。通勤で遥かなる都心まで通う必要がなければ、郊外は一概に「不便」とはいえないと思います。
THさんご夫妻の場合、長年住み暮らした土地での建替えという選択をされました。
やさしい息子さんたちとの関係も踏まえたうえで、夫婦で郊外に住み続けることを選択したわけです。
お二人がテーマに掲げた「老後の住まい」で、通勤もなくなる今後の生活まで考えれば、周辺の生活環境を熟知している「郊外」を選ばれたのは、とても理にかなった選択といえると思います。
また、建て替える家への要望として、一に光と風、二に広がりとデザイン性をあげていらっしゃるのは、「歳をとると望むものが変わってくる」という実感を反映させたものですが、これらを実現するためにも郊外の「広さ」は有効に働くことになります。
ただ、一般論として都市か郊外かを考えるとき、一つだけ注意してほしいのは、「生活圏」ということ。
HT邸は、駅までも歩いて行ける立地なので問題ありませんが、高度成長期に開発された新興住宅地は、山を切り開いてつくった「陸の孤島」のようなところが少なくありません。車がないと不便な場所です。
実は私の実家がまさにそうした立地にあり、80歳を過ぎた父は先日免許を返上したため、日々の買い物にも不便を強いられています。
今後訪れる「老後の生活」を考えるとき、ただ「住み慣れた」ことや環境のよさにこだわるのではなく、最低限の日常の買い物が歩いていける範囲でできる、という条件も十分に勘案してほしいと思います。
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