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10:建築家に対する不安(2013年追記)


ご無沙汰しております。以前相談をしたOと申します。

ようやく最近苦労をして土地を取得しました。これから、実際に住宅をつくるのですが、どのように進めようか迷っています。

建築家に依頼して、住宅を建設しようと思うのですが、今ひとつ不安です。

建築家に頼んでの家づくりについての、漠然とした不安を取り除くために、アドバイスをぜひご教示下さい。住宅メーカと比較して教えていただけると助かります。

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こんにちは、0さん。建築計画網・大系舎の大戸です。


私のご意見を、と言うことなので、ここで述べてみます。
文中の"ハウスメーカー"とは、建築家(デザイン+監理者)が入らない、注文住宅会社
等(=大手メーカー、注文住宅メーカー、工務店)を意味します。


1,建築家と家づくりをする場合は、クライアントは、それなりの労力は必要だと思いま
す。クライアントは自分のための住宅をつくるのですから、よりよい住宅をつくるための
ディスカッションの労力は欠かせません。多少の勉強(材料、設備などの基本知識など)
も、していただくことに越したことはありません。
しかし、一般的にこういった労力は、"つくる"ことであり、"喜び"だと思うので、普
通は苦にならない"楽"しいことだと思います。だから建築家と家づくりをすれば"楽"
=ラクして家はつくれます。(笑)


2,また建築家は、デザインだけが仕事ではなく、クライアントの代理者であり、交渉人
であり、専門知識のアドバイザーでもあります。だから、厄介な工務店との値段の交渉や
、手抜きの監視役なども業務として行いますので、そう言う意味では、直接住宅メーカー
に頼むよりクライアントにとっては安心だし、楽だし、品質が落ちることはないと思いま
す。つまり、くぐらなければいけない施主の厄介な仕事の一部を建築家が遂行します。


3,一方ハウスメーカーと、クライアントが直接契約する場合は、中間に建築家のような
立場の監理者がいないので、上手く信頼関係を築かないと、クライアントは気を揉むこと
も多いとも言えます。例えば、この床材の見積もりの値段は高くないかな?とか、この塗
装材料、契約図と違うのでは?などなど・・・ということでも、第3者的な立場の専門家
からアドバイスを受けることも出来ません。だから、ハウスメーカーに一括して任せるの
が、楽だとは限りません。この場合は先方が、良い会社かということにつきるでしょう。


4,要するに、これから建築家と家づくりを進めようと、ハウスメーカーと契約して家づ
くりを進めようと、どちらにしても、労力が必要です。だから、どちらが楽と言うことは
ないと思います。どうせ労力を掛けるなら、楽しいことにエネルギーを掛けませんか?だ
から"楽"して家はつくれます。これが建築家との家づくりを推薦する第1に理由です。


5,クライアントには、ハウスメーカー向きのタイプと、建築家向きのタイプがあると思い
ます。ハウスメーカー向きの方は、どちらかというと受動的で、与えられたモノの中から
、選ぶということがいいというタイプ。一方、建築家向きの方は、デザインの意識が高く
、よりよいものを追求することが好きなタイプと言うことでしょうか。Oさんと直接お会いし
たことがないので、どちらかは分かりかねますが、土地の取得に掛けたエネルギーは、
家づくりに対する意識の高さを感じます。どちらが良くて、どちらが悪いということはもち
ろんありません。


6,もう一つコストについて。
建築家の設計する住宅は、コスト高くつくと思われるかもしれませんが、それは誤解が
多くあります。建築家の設計でまず掛かるのは、設計料です。
私の事務所では、料率表で決めています。工事費の12%前後です。遠距離の場合は、
交通費の実費をいただきます。ただしインターネットを活用してこの分を減らす努力をする。

参考:建築計画網・大系舎の設計料率表

ただし、ハウスメーカーでも設計は必要です。だからゼロ円と言うことはなく、数%程度
はどんな住宅でも必要になるものです。ただし、設計の意味が全く異なります。普通私達
の設計図書は数十枚にも上るし、一方ハウスメーカーは、数枚から十数枚程度でしょう。
私達建築家は、設計図にじっくり時間を掛け、よりよいものに仕上げて行きます。逆説的
ですが、本当の良い品質のローコストの住宅を設計するには、設計に時間と密度が必要で
す。いい加減で、適当な設計でも安い住宅は出来るだろうけれど、それは手抜きと、粗雑
な材料だからです。ローコスト建築の意味も、建築家とハウスメーカーでは全く違います。


7,工事費について。
建築家の設計する住宅は、ローコストも対応しますし、クライアントによってはハイコスト
も要求されます。要するにクライアントの予算に添って納めるように工夫します。私達建
築家は、工務店から出てくる費用を、きちんとプロの目で査定します。
だから、不明朗な価格を出来るだけ排除するようにします。一方、ハウスメーカーは、細
かな見積もりはつくらない傾向にあります。だから見積もり内容に関して、クライアントは
あまりチェックは出来ないようになっています。


8,それと、ハウスメーカーは展示場を持ったり、営業マンを雇ったり、広告費を使ったりし
ていますよね。そう言った間接経費が価格に相当入っています。だから、ハウスメーカー
が安いと考えられません。一般にハウスメーカーはオプション主義です。だから最低限の
仕様で話をはじめて、徐々にグレードを上げて行きます。だからあまり、坪いくらといった
話を真に受けてはいけません。除外してある価格も注意が必要です。


9,一方私は、初期予算は全ての工事費を含むものです。
だから、初期の段階で、ハウスメーカーと比較すると、クライアントには建築家の坪単価が
高く感じられることがあるかもしれません。所詮同じ土俵ではないのです。


以上が、Oさんが、これからの選択肢を選ばれるときのご参考にして下さい。
まだ書き足りないことがありますが、これだけで一冊の本が書けます。(笑)


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2013年追記new.jpg

2003年当時の、設計者の気持ちとしては、もっと設計事務所へ目を向けて欲しいという気持ちが先に立って、ハウスメーカーより、設計事務所の方が良いですよ、というスタンスでした。

ただ現在では、ハウスメーカー向きの施主と、設計事務所向きの人は、全く異なっていて、各々自分に向いている家づくりを選択すべきだという考えに至っています。

この10年から15年の間に、家づくりは相当に変化したと思います。

ただむやみに、有名ハウスメーカーでなければ、ならないとといった人は、(多分高齢者に多い)は、減ったように思えます。

最近の情報公開による一番の成果は、建て主から見たら、いろいろな家づくりの方法があり、自分に一番適した方法を選択できるようになったと言い換えても良いと思います。