1.ファサードデザインと「品」
KT邸は、都営地下鉄の駅から徒歩3分という、飛びきりの場所にすっきりと「普通」に建っています。
今回はまず、その「普通」の意味を考えてみました。

私は、「町並みと調和する周囲とよく似たファサードデザイン」がよいとは思っていません。
今でこそ文化財等になっている寺院や洋館も、竣工時には奇妙キテレツに見えたはずです。
時を経るなかで、周辺になじみ、やがてシンボル的なものとなっていったのでしょう。
奇妙や奇抜が悪いわけではないと思います。
では、奇抜なのが好きかと問われれば、そうでもない……。
誤解を恐れずに言えば、デザインはどうでもいいと思っています。
大切なのは、いかに「普通」に建っているか、ということ。
 一戸建ての場合、近隣住民とケンカしながら暮らすことほど、気の重いことはありません。それは一生続くのですから。
「家を新しく建てる」だけで、すでに周辺住民のネタミソネミの対象なのですから、ここは腰を低くして、新たに土地を買って建てるなら「これから仲間にいれていただきます」、建替えなら「これからもよろしく」という住み手の気持ちが現れるのが最低限の作法だと思います。
周囲に気を配るテクニックは、設計手法としていろいろありますが、特別なことをしなくても、にじみ出る「品」が大切なのではないでしょうか。
その「品」とは、そのまま住まい手の「品」です。上記のような気持ち、「この町でともに暮らす」という気持ちが住まい手にあれば、自然と建築にも現れるものです。
KT邸のファサードは、自分が自分がと主張するものではなく、また過度に周辺を意識したデザインでもありません。
必要なボリュームを確保し、日射しや視線など機能面を考慮したうえで、最低限の操作が施された、大戸さんらしいデザインです。
妙に気張らず、回りに媚びず、そういう大戸さんの「普通」のデザインが、KTさんの「品」を表しているように思うのです。
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