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03:構造の安全性について(2013年追記)


今回の回答は、実際にご相談いたものではありませんが、内容的として残すためにここに記録いたします。(2005.12.16大戸記)

鉄筋コンクリート構造をはじめ、日本中の建築物の安全性が注目されています。
構造の安全性について、どのように考えているか、当事務所の考え方を述べてみます。



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※2005/12/16不定期日記より

12月16日現在、構造計算偽造事件は、全体の構図が見え始め、組織ぐるみの犯罪という視点と、偽造を見抜けなかった検査態勢を含め、耐震設計の安全性をどのように担保していくかという2点に絞られてきたように感じます。


この事件に関しては、問題点が絞られてきたようなので、具体的なこの事件とは離れて、設計から確認申請、工事に続く一連の流れの中で、どのような考え方で進めたら建築の安全性が確保できるかという私見を述べてみたいと思います。

建築という分野は、私が手がけることが多い住宅というジャンルのほかに、工場、事務所ビル、学校、病院施設など幅が広い。雨風をしのぐためのシャルターという意味では、建築という共通のジャンルですが、各々で、要求内容はもとより、発注者、発注形態、規模、建設技術などが異なるので、それぞれがほぼ専門性を持つ個別のジャンルと言って良いかもしれません。


従ってここでは、日頃私が手がけることが多い形態、つまり発注者イコール住まい手である、いわゆる注文式戸建て住宅か、もしくは施主も一緒に住まうような注文式賃貸併用住宅に絞って、安全な構造設計をどのように担保していくかについて私見を述べてみます。


■住宅という分野
上記のような住宅の場合、発注者つまり建築主が、居住者でもあるところが大きな特徴です。一方同じ戸建て住宅でも建て売りの場合、出来上がったものを購入する訳で、設計や工事中の建築主は分譲する不動産会社になります。分譲マンションなどでも同じようなことが起こります。

このように同じ住宅という分野でも、ものつくりの渦中で奮闘する私たち建築家にとっては、そのプロセスの相違、つまり建築主の相違は、全く異なった価値観でプロセスが進みます。
つまり、クライアントが住まい手である場合は、当初の設計から関わるので、設計プロセスの中で、コストダウンする場合でもクライアントが決定権を持つことが出来る仕組みなのです。施主にとっては何が大切かが見え、そしてコストダウンの考え方についての選択が可能な仕組みです。

一方、分譲マンションなどは、設計又は工事中は企業による経済活動なので、コストダウンを含め、設計から工事過程に起こる様々な判断は、企業の基本方針によってなされるので、当然ですが事前に購入者、つまり住まい手はその決定作業に参加することができません。

このことは、設計から工事完成まで一貫して関わる私たち建築から見ると全くことなる仕組みに見えるのです。つまり、設計のプロセスの中で、住宅の質の決定をクライアントの論理で決めるか、企業の論理できめるかという大きな違いです。これこそが、住まい手自らが、発注者となり住宅をつくる上での、大きなメリットだと思っています。

ですから、私は以前から、住まいとは『出来上がったモノや空間としての側面と、出来上がるまでのプロセスが一体となったもの』だと主張してきました。それは、建築プロセスに、住まい手がどのように関わるかが、住宅の質を決める大きな要因だと感じていたからです。プロセスに参加出来る発注形式を選択したのですから、出来るだけクライアントには家づくりのプロセスに関わっていただきたいと思っています。

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■プロセスが見え、クライアントが参加できる仕組み

大切なことは、住まい手が、全体の中でどのようなコストバランスで、この建築が構成されているかが、見えることだと考えています。
具体的にお話しすると驚かれるかもしれませんが、RC構造で、鉄筋工事とは工事費全体の3〜4%であり、もし鉄筋を10%減らしても、0.4%として計算すると、5000万円の住宅で、5000*0.4%=20万円程度しか減りません。玄関は大理石張りにしたら目に見えますが、鉄筋の本数を減らしても完成後には見ることが出来ません。しかし今回の事件のような鉄筋を減らすという選択は、全体を揺るがす致命的なことなのです。

一般的に工事費は、予算より下回ることは少なく、多くの場合見積もり時に予算はオーバーすることが多い傾向にあります。そして予算調整をする段階における、調整方法が最終的に建物の品質を決定します。この過程に、建て主が参加できるようにすることが大切だと考えています。設計者としては、この重要な決定時期を逃さないように、クライアントとコミュニケーションを重ねていけるような設計手法の確立が大切だと考えています。

■専門的内容を、理解してもらう工夫。
建築設計は、大きく分けると、統合及び意匠デザイン担当(=私たち建築家)、構造設計、設備設計(電気、給排水換気設備)という分野で構成されています。

基本的に各専門は日進月歩で技術が進み、専門性が強くなっています。

構造の分野は、特にこの2,30年で飛躍的に、技術が向上してきました。特に歴史的に大きな被害のあった、福井地震、十勝沖地震、阪神淡路大震災などを契機に、法律改正や新しい耐震設計技術などが取り入れられてきました。

特に最近は、パソコンの普及で、耐震設計のプログラムが急速に普及し、素早くそして容易にパソコンが、安全性の計算をしてくれます。しかし一方、そこが落とし穴で、計算過程は、ソフトが勝手に計算してくれるので、ブラックボックス化してしまいました。今回の事件は、このブラックボックスの中身には無関係であるという点が、一つの原因であるようにも感じています。

しかし、いくら専門性が進んだといえ、大切な安全性については、構造設計者から、わかりやすく、クライアントに直接説明するように心掛けています。構造計算書とは、多分ご覧になった機会はないと思われますが、主にパソコンから打ち出した、数値の表で構成されており、一般の方はほとんど理解不能だと思います。
しかし、重要なポイント、たとえばどの程度の地震に対応できるか、骨組みの特徴、想定以上の地震が来たときの安全性確保手段などクライアントにきちんとお伝えすることが大切だと考えています。


■情報を公開すること。
私の事務所では、構造設計は、2者の方にお願いしています。
一人はベテラン構造設計者の山領さん(構造デザイン所長)、もう一人は、若い久田さん(構造設計工房デルタ所長)。私の考え方は、構造設計者が、クライアントに顔が見えるようにし、構造設計者から直接構造の説明をしていただくことが重要だと思っています。

従って、構造の視点から生まれる重要な選択肢が出てきたときには、私と構造設計者、そしてクライアントが相談しながら決定していくようにしています。
たとえば、以前の計画(NO.20_KI-HOUSE)では、杭の仕様を決定することが重要な選択肢となったことがありました。この時に、久田さんにクライアントとの打ち合わせに加わってもらい、地盤の状況、杭の考え方などを丁寧に説明していただきました。

また、そのプロセスの様子は、HPでも公開しています。その他のプロジェクトでも、構造設計者から直接クライアントへ、構造の概要を説明していただくようにしています。

専門的な話だから、専門家に任せろと言うスタンスではなく、工事中の現場監理を含め、なるべく住まい手であるクライアントにも建物の構造を理解していただくことが、良いと考えています。

またクライアントに了承をいただいた場合は、HP上にも積極的に公開して、閲覧者に参考にしていただけるよういくにしています。

以上が構造の安全性確保に関する私の意見です。

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2013年追記new.jpg

2007年の法改正で、一定規模以上の構造設計には、ピアチェックという制度が出来ました。
これは、建築確認申請において、構造設計には、建築確認申請機関の他に、もう一つ別の構造審査機関にも、構造設計・計算の妥当性を審査してもらうという制度です。

これは、構造偽装事件を受けて出来た制度です。間違いを無くすという面はあるのですが、一方構造設計に対して、規制が厳しくなり、自由な設計を受け入れにくくなったという面も指摘されています。