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09:工務店と設計者の関係

ホームページを拝見させていただき、大変興味を持ちました。
私は現在、大手メーカーの海外支社に出向中の普通のサラリーマンです。
恐らく、あと1年ほど当地に滞在し、その後帰国となると思いますが、帰国後はなる
べく早く一戸建ての家がほしいと考えております。
---中略---
私の設計事務所に依頼するにあたっての不安と疑問を以下に述べさせていただきま
す。

  設計士(事務所)と工務店との関係

  大戸さんはホームページの中で、住まうということや、その空間内で息をするこ
と、など、いわゆるソフトの面を強調してらっしゃるように解釈いたしましたが、非常に無粋で即物的なものの考え方のようで恐縮ですが、私はやはり、ハードあってのソフトであると思うのです。

  その意味で、あえてわけるとすると、大戸さんがソフト面を主に担当されるとして、ハードの担当は工務店になるのではないかと考えます。
  つまり、ハードウェアとしての家の居心地の良さは、その多くを工務店の、いわゆる「ウデ」に委ねるところ、大ではないかと私は考えます。ここが設計事務所の弱いところではないか、と。

  では既存ハウスメーカーはどうか、と言うと、もちろん大なり小なり、工務店の「ウデ」に頼る部分はあるでしょうが、その「ウデ」によって生じる個体差を、専属、専門、契約、系列、などのシステム、あるいは、既製品の組み合わせ、という枠組での縛り、などによって最小限に抑えることが可能なのではないか、と考えています。

  大戸さんはさらに、「いつも同じ工務店に依頼しているわけではない」とおっしゃっています。家を建てる、という一つの仕事を縦割りで完遂するハウス・メーカーと、横割りにどうしてもせざるを得ない設計事務所、ハードウェアの部分に  はどうしても手、目が出しにくい、届きにくい設計事務所、というイメージを持ってしまいます。

  ものすごく極端な言い方をしますと、いくら設計管理をきっちり果たそうとしたところで、根本的に工務店の「ウデ」がダメなら致命的で、管理によって矯正のしようがない、かつ、矯正のしようがないほどダメであることがわかるのは実際の工事の段階に入ったあとではないか?という疑問です。

  大戸さんは、工務店のウデによって生じる個体差をどのように管理、あるいは未然に防いでいらっしゃるのでしょうか??
あるいは、上記の私の考えに根本的な誤りがあるのでしょうか?

from K

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こんにちは、Kさん。建築計画網・大系舎の大戸です。


またホームページご覧いただきありがとうございます。

>私は現在、大手メーカーの海外支社に出向中の普通のサラリーマンです
■地球の裏側から、メールいただきありがとうございます。
インターネットしているって実感できますね(笑)


>恐らく、あと1年ほど当地に滞在し、その後帰国となると思いますが、帰国後はなる
>べく早く一戸建ての家がほしいと考えております。

■海外にいらっしゃると、余計居を構え落ち着きたいというお気持ちが強くなるのでしょうか。


■さて、Kさんの家づくりの仕組みについてのお考え、拝見しました。
はじめての家づくりなので、良くある誤解と思われる部分もあるように見えます。
そう言った部分を踏まえ、設計事務所の役割について、住宅メーカーと比較しながら言及してみます。

一言で言いますと、設計事務所の立場は、施主の(技術的な)代理人ということです。
つまり、施主への技術的アドバイザーとして、施主が家づくりにおいて、最大の利益を得ることが出来るように補佐する立場です。

その主な仕事は、

1,優れたデザイン=設計技術

2,コスト管理=見積調整など

3,現場監理=契約書通りに施工が行われているかの確認

以上です。

1,は一般には意味で一番知られた建築家の仕事です。kさんの言われるソフトの部分です。

2,は相見積などを通して、不明瞭な見積をチェックし、リーズナブルな価格で工事を発注するように調整します。とても大切な仕事。
普通は、住宅の見積書は、複雑なので施主にはチェック出来ません。(みなさん住宅メーカーの対しては、どうしていらっしゃるのか不思議です。)

3,は施主の立場で、手抜きなど無いように工事をチェックします。

特に、2と3に関しては、施工会社とは、利害関係の無い第3者の立場で、施工の管理を
行いうことが建築家の特徴です。常時現場に居るわけではありませんが、大体週に、1,2回程度で現場に伺います。(普通、住宅メーカーの管理者でも常時は現場に居ません。)

これに対して、住宅メーカーなどは社内検査や内部査定という形を取ります。ですから内部検査ですから、場合によっては、検査体制が甘くなると考えられます。

確かに、kさんが考えていらっしゃるような、品質管理の体制が良く働けば、品質が守られると言う面もありますが、一方雪印などを見れば分かるように、内部検査というものは、甘くなることもあります。(ただし近年は、社外の住宅検査専門の会社も出来てきましたので、第3者に検査を依頼することも可能になってきました。)

結局クライアントの方が、これらの方向性をどのように考えるかでしょうか。


■それから、職人のウデについて。
現代の職人は、工業化が進み機械の一部と化しつつあり、段々職人技が発揮出来ないような環境になりつつあるようです。
時間給で、効率だけを求められている現場は、無味乾燥となります。

ですから私は職人に、ウデをふるって良い仕事をしてもらうために、管理するという意識よりも、やる気を起こしてもらえるような現場環境つくりを目指しています。

もちろん職人を野放しにすると言うことではありません。現場監理を通して、管理やアドバイスを行います。検査もきちんと行います。

職人を管理すると言うよりは、一緒につくるという意識を持っております。
職人にやる気が出れば、必要以上のことをやってくれます職人本来のウデを引き出せます。また誰がつくったかが分かれば、当然職人にも責任感が生じてきます。


そのために、コミュニケーションが大切であり、デジタルツールを活用した設計監理を試
行錯誤しています。

https://www.taikeisha.net/sub_html/droom_t.html


それから、ハウスメーカーの職人って、それほどウデは良いとは限りませんよ。顔が見えないので、必要以上のことはしませんし。

また私が見積を出す工務店は、ある程度技術的な裏付けがあるところであり、どこでも入札に入れるわけではありません。


■以上のようにクライアントにとって、建築家との家づくりはベストかどうかは、クライアントの方の考え方次第だと思います。

その点は、ご自分に適した家づくりの方法をご選択いただくようじっくりご検討下さい。
例えば、先ほどの管理に対する考え方など、設計者によっても違います。そのあたりは、ご検討していただき、納得する方法を選ばれるようにされるのが良いでしょう。

大まかに言いますと以上です。


■また建築家との家づくりについて。
建築家と一緒に住宅をつくると言うことは、ある意味施主にとって手間が掛かります。それでも、一緒につくって行くという意識をお持ちになっていただければ、それも苦痛と言うより、楽しみに変わり、きっと有意義な家づくりの道が開けると思います。


>それでも家を建てることを真剣に考え、望んでいる人間の疑問ですので、お時間のあ
>るときにでもご返信いただければ大変幸甚であります。
■家づくりは、人生における大きな選択の一つです。
じっくりご検討して下さい。


以上です。